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病気・症例紹介

CASE

2024.07.02
椎間板ヘルニア

椎間板の構造

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椎間板は文字通り椎骨(背骨)と椎骨の間にあり背筋を伸ばしたり曲げたりするときにクッション役割を担っています。

椎間板を輪切りにすると目玉焼きのような構造をしており白身の部分を繊維輪、黄身の部分を髄核といいます。椎間板ヘルニアはこの椎間板の構造が変化し脊髄を圧迫することで発症します。椎間板ヘルニアは圧迫の仕方によってハンセン1型と2型に分類されます。

ハンセン1型椎間板ヘルニア

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ミニチュアダックスフント、ビーグル、ウエルシュコーギー、チワワ、トイプードル、シーズーなどの軟骨異栄養性犬種に発生が多いタイプのヘルニアです。

軟骨異栄養性犬種では若いうちに椎間板の変性がおこり髄核は硬く、繊維輪はもろくなり椎間板のクッション性能も失われていきます。ここに負担がかかり、繊維輪が破れて中の髄核が飛び出して脊髄を圧迫するのがハンセン1型の椎間板ヘルニアです。

ハンセン1型椎間板ヘルニアの特徴は比較的に若い子に発生が多く、急性に発症します。

ハンセン2型椎間板ヘルニア

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加齢に伴って線維輪の内層が断裂し、その中に髄核が入り込み線維輪を押し上げることで脊髄を圧迫するのがハンセン2型椎間板ヘルニアです。柴犬や大型犬(ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバー、ジャーマンシェパードなど)に多いといわれています。
ハンセン1型に比べ高齢(8歳以上)の犬に多く、慢性経過をたどり、徐々に進行することが多いのが特徴です。

症状

脊髄を圧迫している場所や程度や症状が異なりますが、通常痛みから始まり運動失調、不全麻痺、完全麻痺、排尿不全、深部痛覚の消失といった順で進行していきます。

症状の重症度により以下の5段階に分類されます。

  • グレード1:背中の痛み 段差の上り下りを嫌がったり抱っこのときに痛がって鳴いたりします。
  • グレード2:軽度不全麻痺。歩行は可能だが足の力が弱くなりふらついて歩く状態です。
  • グレード3:重度不全麻痺。かろうじて足を動かせるが立ったり歩いたりできない状態です。
  • グレード4:完全麻痺。排尿障害。足を全く動かせない状態。
  • グレード5:深部痛覚の消失。足を強くつねっても痛みを感じません。

グレード4、5の症例の3~6%で脊髄軟化症を発症します(グレード4ではまれ、グレード5では5~10%)。

脊髄軟化症は急性の脊髄損傷に続発し、進行性に脊髄が壊死していく病気です。ヘルニアの発症から3~7日かけて進行し、壊死が延髄に到達すると呼吸停止を起こし死亡します。現在のところ脊髄軟化症に対する確実な治療法はありません。

治療

外科療法(手術)、内科療法、リハビリテーションを組み合わせていきます。治療法の組み合わせは病気の重症度、ご家族のご意向に合わせて選択していきます。下の表は椎間板ヘルニアの重症度による内科療法と外科療法の治癒率の違いを表しています。

当院では初期治療として、通常グレード2までは内科療法、グレード3は内科療法の反応を見ながら外科療法の必要性を検討します。グレード4以上の場合は外科療法を推奨しています。特にグレード5では手術までの時間が治癒率に影響するという報告があり、早期の外科療法が推奨されています。

内科療法

内科療法の基本は安静です。散歩を控えるといった程度では不十分で厳密なでケージレストが必要となります。ケージレストとは排尿、排便のために移動させる以外はケージの中でじっとさせておくという治療法です。期間としては椎間板の修復に必要な4~6週間と長期にわたります。必要に応じてステロイドや鎮痛剤を使うこともありますが、一番重要なのは安静です。安静にせずにこれらの薬を使うと逆効果のこともあります。

長所

  • 費用的な負担が少ない点
  • 麻酔のリスクがない点

短所

  • 外科療法に比べ再発率が高いこと(1/3以上の犬が再発するという報告あり)。
  • 安静期間が長いためリハビリ開始が遅くなること
  • 長い安静期間中のご家族の精神的負担が大きいこと

外科療法

ヘルニアを起こしている椎間板に直接アプローチして飛びだした髄核を摘出します。脊髄の圧迫を取り除きますので術後のケージレストは必要ありません。

長所

  • 重症度の高いグレード4、5の症例でも回復率が高いこと
  • 内科療法に比べ再発率が低いこと
  • 安静期間が短く、リハビリの開始が早期にできること、ご家族の負担も少ないこと

短所

  • 費用がかかること
  • 麻酔リスクがあること
  • 術前の脊髄軟化症の診断が困難なため術後に脊髄軟化症が明らかになることがある

最初は症状が軽くても短時間で重い症状に進行することがあります。背中の痛みや麻痺などの症状がみられたら、安静にしてなるべく早く動物病院を受診しましょう。