春や秋になって健康診断のお知らせが届き、どのコースにしようか迷われている方も多いと思います。また、コースごとの検査項目を見ても、何の値なのか・それで何を診ているのかについて、イマイチ分からないこともあると思います。
この記事は、健康診断を受ける方にも、「今回は受けなくていいかな」と今は考えている方にも、各検査内容とその意義、健康な状態での正常値を知る重要性についてご理解をいただいた上で、ご家族がワンちゃんネコちゃんの健康に対して後悔のないようにしていただきたい、という思いから作成しました。少しでも役立てていただければうれしいです。
健康診断のメリット
ワンちゃんネコちゃんは言葉を話せないので、具合が悪くても、それを伝えてはくれません。体調が悪いことに気がついたときには、既に病気が進行していることもあります。このため、ご家族が少しの異常でも気づいてあげることや、定期的な検査にて症状が出る前の異常を見つけることが重要となってきます。
健康診断で早期に病気を発見することができれば、早期に治療を始めて病気の進行を遅らせたり、健康寿命を延ばしたりすることができる場合があります。(具体例は、「健康診断でどんな病気がわかるの?」をご参照ください。)
また、今回の検査で異常が無くても、定期的な検査データがあれば、その変動を見ることで今後発症するかもしれない病気の予測にもつながるため、治療を適切なタイミングで開始できたり、予防したりすることができる場合もあります。
他にも、一匹一匹の健康な状態での値(その子の正常値)を把握できる、病院に来るきっかけ作りができる、身体検査で皮膚などの異常が偶然見つかることがあるといったメリットも大きいです。
血液は何からできている?
まず、血液は大きく分けて、“血漿(けっしょう)血球(けっきゅう)の2つの成分からできています。さらに、血球には、赤血球(せっけっきゅう)、白血球(はっけっきゅう)、血小板(けっしょうばん)の3種類が含まれています。また、血球は主に、骨の中心部にある骨髄(こつずい)で作られています。
血液検査で何がわかる?
続いて、血液検査の内容についてです。
血液検査には主に、完全血球計算(全血球数算定・CBCと呼ぶ場合もあり、血液中の血球の数を計算します)と血液生化学(せいかがく)検査があり、血球に対して行うのが完全血球計算、血球以外の成分に対して行うのが血液生化学検査です。
動物病院では、これらの血液検査の結果やワンちゃんネコちゃんの症状をふまえ、場合によっては追加の精密検査を実施するなどして、総合的な評価を行い、診断や原因の特定をしています。
それでは、それぞれの検査項目について詳しく解説していきます。
完全血球計算
血液中の血球の数を調べる検査で、3種類の血球について以下のような項目があります。血球系の検査について、当院のYouTubeチャンネルでも詳しく解説していますので、併せてご視聴ください。
https://www.youtube.com/watch?v=KrS2rwQkSW0
赤血球系
赤血球に関連する検査項目を下に示しています。これらの値が高くなることがある疾患として、脱水(血液が濃縮されるため)、心肺疾患、腎臓の腫瘍、骨髄の病気などがあります。採血時の興奮や緊張で一時的に増加することもありますが、これは生理的なものです。また、低くなる疾患としては、様々な原因による貧血があります。
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赤血球数
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一定の血液量に含まれる赤血球の数を調べます。
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ヘモグロビン濃度(HG)
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赤血球中に含まれ、全身へ酸素を運ぶ物質であるヘモグロビンの濃度を調べます。
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ヘマトクリット値(HCT)
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血液中の赤血球の体積割合を見ます。
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平均赤血球容積(MCV)
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赤血球1個の大きさ(容積)です。
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平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)
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赤血球1個あたりのヘモグロビンの量です。
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平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)
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単位容積赤血球あたりのヘモグロビン濃度です。
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網状(もうじょう)赤血球(RET)
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未熟な赤血球で、貧血のタイプ(赤血球が作られない貧血なのか、赤血球が壊される・体外へ出てしまう貧血なのか)の特定に重要です。
2.白血球系
白血球の総数と、白血球に含まれる血球5種類のそれぞれの数を調べます。
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白血球数
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白血球は、体内へ侵入した細菌・ウイルスなどの病原体や異物からからだを守る、軍隊のような役割を担っています。そのため、炎症や感染でなどで数が変動します。
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好中球(こうちゅうきゅう)数
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体内に侵入した病原体や異物を食べたり、消化して殺菌したりしています。ストレス、細菌感染、炎症などで増加することがあります。ウイルス感染、重度の感染症などで減少することがあります。
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リンパ球数
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主に免疫を担う細胞で、リンパ節などで成熟します。長期にわたる炎症、腫瘍などで増加することがあります。ストレス、ウイルス感染症などで低下することがあります。
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単球(たんきゅう)数
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体内に侵入した病原体や異物を食べたり、リンパ球を補助して免疫にも関わったりしている細胞です。長期にわたる炎症、ストレスで増加することがあります。
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好酸球(こうさんきゅう)数
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寄生虫の排除やアレルギー疾患に関与しています。寄生虫感染、アレルギー疾患、腫瘍などで増加することがあります。
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好塩基球(こうえんききゅう)数
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主に即時型アレルギー反応に関与しています。かゆみなどのアレルギー症状や一部の骨髄の病気などで増加することがあります。
血小板系
血小板は、出血の時に血管の損傷部位をふさぐことで出血を止めるという重要な役割を担っています。
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血小板数
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長期にわたる出血、骨髄の病気、免疫の疾患(自身の免疫が過剰に働いてしまうことで血小板をこわしてしまう疾患)、腫瘍などが原因で減少します。また、血小板が異常に少なくなると、出血を止める機能が低下するため、皮下の点状出血・鼻出血・血尿などの症状が認められることがあります。
血液生化学検査
からだの臓器・器官の状態を調べる血液検査です。各臓器のはたらきや関連する血液検査内容について、当院のYouTubeチャンネルにてわかりやすくご紹介しているので、併せてご視聴ください。
肝臓・胆道系、腎臓
消化器系、内分泌系(副腎、甲状腺)
検査項目
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総蛋白(そうたんぱく)(TP)
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血液中のタンパク質の総量で、主にアルブミンの量とグロブリンの量の和となるため、アルブミンやグロブリンの値も組み合わせて評価します。この項目は、栄養状態や脱水の評価の他、肝・腎機能や免疫機能の指標となります。。
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アルブミン(Alb)
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血液中のタンパク質の中で最も量が多く、肝臓で作られています。アルブミンは、血液の浸透圧をコントロールすることで血管内に水分を保持する役割を担っています。そのため、アルブミンが 減少すると、血管外へ水分が漏れ出し、むくみや下痢などの症状が出てきます。また、血液中で様々な物質とくっついて、それらを体内の目的地へ運ぶはたらきなどもあります。アルブミンの数値は、脱水などで上昇することがあります。
一方、数値が低下している場合は、
①体外への喪失(腎臓や腸から漏れ出る、出血で体外へ出て行く、腹水などで体腔へ漏れる、など)
②産生の減少(肝臓の機能や構造の異常、栄養不良など)を考えます。
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グロブリン(Glob)
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血液中のタンパク質の中でも量が多く、免疫を担うタンパク質も含まれます。脱水、長期にわたる炎症や感染症、腫瘍などで数値が上昇することがあります。また、ネコちゃんの感染症である猫伝染性腹膜炎(FIP)、猫エイズ感染症(FIV)、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)でグロブリンが増加することがあります。
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アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)
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肝臓・筋肉・赤血球などの細胞内に多く含まれている酵素です。これらの細胞が障害を受けると、血液中にASTが漏れ出し、数値が上昇します。後述するALTの上昇を伴うAST上昇は、肝臓に異常がある可能性を示します。ALT上昇を伴わないAST上昇は、筋肉の異常や外傷などの可能性を示します。
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アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)
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主に肝臓の細胞に多く含まれる酵素です。肝細胞が障害を受けると、血液中にALTが漏れ出し、数値が上昇します。数値の上昇は、肝障害(肝炎、薬物による肝臓の障害など)の可能性を示します。長期にわたる重度の肝疾患では、むしろ数値が低下することもあります。
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アルカリフォスファターゼ(ALP)
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肝臓や骨、胎盤などからだの色々な臓器に存在している酵素です。胆道系疾患(胆汁うっ滞など)、成長期、副腎の病気、腫瘍などで増加することがあります。また、ワンちゃんではステロイドの影響、ネコちゃんでは甲状腺の病気などで増加する場合もあります。
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ガンマグルタルトランスペプチターゼ(GGT)
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胆管などに存在する酵素で、肝機能の指標となります。主に胆道系疾患(胆汁うっ滞、胆管肝炎など)で上昇します。ワンちゃんでは、ステロイドのお薬による影響で上昇することもあります。
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総コレステロール(TCho)
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からだの主要な脂質成分で、ステロイドホルモンや胆汁、細胞成分の材料となります。大部分は肝臓で合成されますが、食べ物からも摂取しています。食後、肝臓・胆道系疾患、腎臓病、糖尿病、甲状腺の病気といったホルモンの病気などで高値となることがあります。肝障害や消化吸収不良などでは、低値となることがあります。また、高コレステロール血症になりやすい犬種として、シェットランド・シープドッグなどが知られています。
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トリグリセリド(TG)
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からだの中に豊富に存在する脂質(中性脂肪)で、エネルギーの供給源となります。肝臓で作られたり、食べ物から摂取されたりしています。食後、膵炎、甲状腺の病気、糖尿病、副腎の病気などで増加することがあります。また、高トリグリセリド血症になりやすい犬種として、ミニチュア・シュナウザーなどが挙げられます。
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総ビリルビン(TBil)
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役目を終えた赤血球が壊される際に放出されたヘモグロビンが代謝(たいしゃ)されてできる物質です。肝臓へ運ばれた後、特別な処理を受けて胆汁中に排泄されます。溶血(ようけつ・赤血球の破壊)、肝障害、胆道系疾患(胆汁うっ滞、胆道閉塞など)で数値が上昇します。ビリルビンは色を持つため、血液中のビリルビンが増えると粘膜が黄色くなる症状が見られることがあります。
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グルコース(Glu)
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血糖値を示します。グルコースは、からだのエネルギー源としてはたらき、血液中の濃度は様々なホルモンによってコントロールされています。糖尿病では高値となります。また、食後、ストレス・興奮(特にネコちゃん)、ホルモンの病気などでも高値となることがあります。一方、栄養不良や膵臓・肝臓の腫瘍、肝臓の病気などで低値となることがあります。
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アミラーゼ(Amy)
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膵臓(すいぞう)などで作られる消化酵素です。ワンちゃんにおいて、後述の膵特異的(すいとくいてき)リパーゼ・リパーゼと併せて膵炎(すいえん)の診断に補助的に用いられることがあります。
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リパーゼ(Lip)
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膵臓などで作られる消化酵素で、トリグリセリドを分解するはたらきがあります。ワンちゃんにおいて、膵特異的リパーゼ・アミラーゼと併せて、膵炎の診断に補助的に用いられることがあります。
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犬 膵特異的リパーゼ(Spec cPL)/猫 膵特異的リパーゼ(Spec fPL)
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リパーゼは複数種類あり、そのうち、膵臓からのリパーゼのみを検出するため、ワンちゃんネコちゃんの膵炎の診断において有用な指標と言われています。ただし、膵炎以外の要因でも上昇することがあるため、高値となった場合は、他の検査も組み合わせて総合的に診断を行います。急性膵炎について、詳しくは当院の病気・症例紹介記事『犬の急性膵炎』をご覧ください。
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尿素窒素(BUN)
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体内でタンパク質を代謝した際にできる有害なアンモニアを、肝臓で処理して無害にした物質で、腎臓から排泄されます。脱水、食後、腎臓の病気、消化管出血などで上昇することがあります。腎臓の病気における上昇については、腎機能の約75%が失われて始めて上昇が認められることが知られています。一方、肝障害で低下することもあります。
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クレアチニン(Cre)
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筋肉中の物質を代謝してできる物質で、腎臓から排泄されます。食後、激しい運動後、筋肉の病気、腎臓や尿路の病気などで上昇することがあります。腎臓の病気における上昇については、腎機能の約75%が失われて始めて上昇が認められることが知られています。一方、筋肉の減少などで低下することがあります。
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SDMA
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腎機能の指標です。食事や筋肉の影響を受けない点と、腎機能の約40%以上失われると上昇が見られることがある点から、前述のBUN・Creよりも正確・早期に腎機能低下を検出することができます。特に、ネコちゃんの慢性腎臓病は、症状が出てきた頃には病気が進行していることがあるため、早期発見において重要な指標となります。
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リン(P)
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腎臓の病気、上皮小体(副甲状腺)の病気、ビタミンD中毒、呼吸の状態など色々な要因で変動することがあります。
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カルシウム(Ca)
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骨や筋肉、神経の機能や血液凝固などに関わります。腎臓の病気、上皮小体の病気で変動することがあります。また、ビタミンD中毒、腫瘍で高値となることもあります。
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ナトリウム(Na)/カリウム(K)/クロール(Cl)
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これらは電解質と呼ばれ、細胞内外での分布割合が決まっており、細胞内外の水分量やpH調節、神経機能の維持に関わるなど、非常に重要な機能を担っています。からだの様々な異常で変動します。
オプション検査
※健康診断のシーズンによっては含まれない項目です
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総サイロキシン(T4)
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甲状腺とよばれる器官から作られる甲状腺ホルモン(元気ホルモンと呼ぶこともあります)のひとつです。ネコちゃんでは甲状腺ホルモンが出すぎてしまう病気、ワンちゃんでは甲状腺機ホルモンが少なくなってしまう病気が多いです。
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NT-proBNP
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BNPは、心筋に負荷がかかった時に放出されるホルモンのひとつで、この数値の上昇は、心臓病の重症度と関連していると言われています。他の心臓に関する検査と併せて、心臓病の診断や予後評価に用いられます。ネコちゃんでの発症が多い肥大型心筋症は、無症状で心雑音が聞こえない場合が多いため、NT-proBNPの検査をして始めて病気が見つかったケースもあります。
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C反応生蛋白(CRP)/血清アミロイドA(SAA)
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からだのどこかで炎症や組織障害がある際に増加します。ワンちゃんではCRPを、ネコちゃんではSAAを測定します。炎症状態の改善や悪化に伴って数値が変動します。
健康診断でどんな病気がわかる?
早期発見により早めの治療を開始することで、病気の進行を遅らせたり、健康寿命を延ばしたりすることができる病気として、次のような例があります。
心筋症(しんきんしょう)
心臓の筋肉の病気です。先天的な(生まれつきの)ものも含め、血液検査NT-proBNPという項目で早期に異変が分かると、お薬で悪化を遅らせる(進行を遅らせる)ことができる場合もあります。
膀胱結石(ぼうこうけっせき)
種類やサイズによってはレントゲンで検出することができます。結石の種類に応じて、尿路に詰まる前に尿石用のフードを与えて溶かしたり、手術で摘出したりすることができます。
慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)
ネコちゃんの腎臓病は、症状が出てきた頃には病気が進行して腎機能もかなり低下していることがあるため、血液検査という項目などによる早期発見は重要です。早期にこの病気が見つかれば、いつもの食事を腎臓病用のフードへ変更することで、腎臓への負担を減らし、残存した腎機能をできるだけ温存するなどの治療を、より早くに開始することができます。
腫瘍
レントゲンや血液検査から腫瘍を疑う場合もあります。その場合、より詳しい検査を進めていきます。
さいごに
以上のように、健康診断では、一度の採血で、様々な病気の可能性を早期に知ることができます。また、いろいろなメリットがあるため、当院のスタッフのワンちゃんネコちゃんは、春と秋の2回、健康診断を受けている子も多いです。
健康診断の内容やコース選択についてなど、何か分からないことがありましたら、なんでもご相談ください。加えて当院では、さらにワンちゃんネコちゃんの健康を考え、シーズンに併せたオプションも用意しましたので、そちらも是非ご検討ください。